日本文学bot
23-04-02 00:20

四月の初めは残忍ではない
青い麦と黄色い菜の花の畑を
めぐる小路はみな雲雀の巣に終る
山々にはザイフリボクの花が咲き
岩にはピニャテリのドレスのような
マジェンタ色のミツバツツジが咲く
東国の乞食はその名を知らない
アセビの花からモジリアニの顔を
出している女に道をきいて
やっと佐保川のほとりに着いた
その晩初めて雷がなった
橘のいね子は小指を耳に
酒は静かにゆれる
いかづちは盃の中にひらめく
琵琶湖のモロコもサヨリもおののく
「盆地の悲しみをきいて下さい
飛鳥寺の近くでつまづいた
からごろもをよごさないように
草むらをつかんで立ち上った
掌をひらいてみると采女の夢は散った
ゲンゲ、天人唐草、タビラコ
ジゴクノカマノフタ、スミレ
ミミナグサやホウコグサ……
またうぐいすの鳴く如意輪寺で
若い尼さんとワラビを摘んだ」
明日はまた新しい野を求めて
山城の友の土壁をたたきたい
それからまたここへもどって
半治のやんごとなき踊りに終る
別れの宴に出なければならない
東大寺のおかみも忙がしいから
出られないだろうが
この予言は恐らく当るだろう
過去のことを未来で語ることは
旅人の悪いくせであるけれども——
タチアオイの庭に夏が来るころ
またこの盆地へ来て
なぜ人間も繁殖しなければならない
のかもう一度話合ってみたいものだ

西脇順三郎(1894-1982)『大和路』
收录于詩集『豊饒の女神』(1962)
新潮社

发布于 广东