日本文学bot
24-10-24 12:13

愛情50

 女ふたりと、男ひとりが、神妙にむかひあはせに坐つてゐる。
 男が加害者、女が被害者といふわけだが、いづれも默りかへつて、
 絹絲光澤の强い照明が、箱のすみつこの小蟲の這ふのまでてらしてゐた。

 そのあひだにも、もつと貴重な時が失はれてゆくのだが
 とりかへしのつかないその時間を、みすみすどうしやうもなかつたが。

 女ふたりでさんざん諍つたあとだ。そしてどちらもゆづらず對峙したまま、
 とどのつまりは、雙方を同時に立てる、できない相談を男につきつける。

 男は、なんとかして早く、この猿芝居の幕を曳きたがつてゐたが、
 發作のをさまるまで待つよりほかはないことも承知してゐた。

 どんなむづかしいなりゆきでも、時間がいつさい解決してくれると、男は多寡をくくつてゐたが、
 それにしても、困つたことで、籍のない女の方は孕んでゐたし、子供のない女の方には籍が入つてゐるのだ。

金子光晴「愛情50」
收录于詩集『愛情69』(1968)
筑摩書房

发布于 广东