愛情50
女ふたりと、男ひとりが、神妙にむかひあはせに坐つてゐる。
男が加害者、女が被害者といふわけだが、いづれも默りかへつて、
絹絲光澤の强い照明が、箱のすみつこの小蟲の這ふのまでてらしてゐた。
そのあひだにも、もつと貴重な時が失はれてゆくのだが
とりかへしのつかないその時間を、みすみすどうしやうもなかつたが。
女ふたりでさんざん諍つたあとだ。そしてどちらもゆづらず對峙したまま、
とどのつまりは、雙方を同時に立てる、できない相談を男につきつける。
男は、なんとかして早く、この猿芝居の幕を曳きたがつてゐたが、
發作のをさまるまで待つよりほかはないことも承知してゐた。
どんなむづかしいなりゆきでも、時間がいつさい解決してくれると、男は多寡をくくつてゐたが、
それにしても、困つたことで、籍のない女の方は孕んでゐたし、子供のない女の方には籍が入つてゐるのだ。
金子光晴「愛情50」
收录于詩集『愛情69』(1968)
筑摩書房
发布于 广东
